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詐欺師の話術は「マッキンゼー式」だった
ワルの経済教室3
2014年06月10日(Tue) 多田 文明
ギャンブル詐欺商法にみる、相手にこちらの話を聞かせるためのテクニック
電話などで架空の儲け話を持ちかけて、金を騙し取る詐欺被害が続発している。今回はギャンブル系の投資話をもちかける“ワル”のケースを取り上げたい。
近頃、70歳の女性が、競馬情報を提供する業者から「すでにレースの着順が決まっている八百長レースがあります」という話を持ち掛けられて、情報料金として合計250万円をだまし取られる事件が起きた。
70代男性は業者から「競馬レースに投資するシステムに参加してみませんか」と何度も電話がかかり、手数料の名目で、繰り返し金を送り200万円を搾取されたとのニュースが報道されている。
競馬などはギャンブルであるにもかかわらず、「競馬レースには、必ず勝てる情報がある」という、にわかには信じられないような話を、詐欺業者はどうやって相手に信じさせていくのだろうか。
私は競馬の勝ち馬情報を教えてくれるという業者のサイトに会員登録したことがある。登録の翌日から、業者の男から頻繁に電話があった。
「あなたに競馬で稼ぐために伝えたい大切なことが、3つあります」
電話口の男は最初にそう切り出した。それは何なのかと尋ねると、
「それについては、明日お電話します。楽しみにしていてください」
ずいぶんともったいぶった話し方で、電話を切った。
果たして、「稼ぐための3つのこと」とは何であろうか。そんなもの本当にあるのか。怪しい。実に怪しい。けれど、心の中には、「もしかしたら」と思っている自分もいる。
男は翌日、電話でそれが何かを話してくれた。
「1つ目は、競走馬を育成しているAグループの存在です。このグループが育成した馬は、競走馬として数多くレースに出場しており、このグループが主導する仕込みレースが年間、いくつかあるのです」
それは「やらせのレースがあるってことですか?」と尋ねると、いい質問をしますね、といった間の取り方で先方はこう立て板に水のトークを展開した。
「もしかしたら、本当の情報かもしれない……」心がざわついた
「はい。大相撲の八百長問題はご存知ですね。それと同じことが、競馬でも行われています。2つ目に知っておいてほしいのは、競馬情報会社B社の存在です。ここにはAグループの人たちが役員として多く入っています。当社はこのB社から、Aグループによる仕込みレースの特別情報を手に入れています。3つ目は枠順になります。JRA(日本中央競馬会)は表向き、枠順はコンピューターによる抽選で決めているといっていますが、仕込みレースでは、やらせ馬が勝てるように枠順が決められているのです。こうして、Aグループ、競馬情報B社、JRAと3つが融合して、仕込みレースができるわけです」
私の中の「もしかしたら」心が激しく騒いだ。しかし、平静を装って言った。
「そんな話を急に聞かされても、ちょっと信じられませんよね」
すると、こちらの返答は織り込み済みといった感じで男は丁寧な口調で話し、電話を切った。
「ごもっともです。今週末のレースの極秘情報を手に入れられるので、明日改めて説明します」
翌日、男はまず「この仕込みレースを提供する上で守って頂きたいルールが3つあります」と言って、次の言葉を読み上げた。
「1つ、この情報を他言しない。2つ、このレースでの馬券の購入はしない。このレースではその内容が真実かどうかを見極めてもらいたい、ということです。本来、この特別情報は、会員さんの審査をした上で、それに受からないと提供できない貴重なものなのです。3つ目は、JRAなどに仕込みレースがあるかなどと、クレームをしないでくださいね。約束できますか?」
私は自分でもびっくりするような大きな声で、はっきり「はい」と即答した。
答えると、明日の仕込みレースがどうなるかを伝えられた。ただ、「○○という馬が先頭に出まして……」とレースの流れを話すものの、肝心な着順については、「あなたはまだ特別会員ではないので、残念ながら着順を教えることはできません」とごまかされた。
「教えてもらうには……?」
「そうですね、この仕込みレースの着順まで教えるとなると、情報料金がかかってしまいます。300万円になります」
私はその「誘い」を断った。実際にレースを見てみたが、聞かされた「レース展開」はどうとでも取れる内容であった。
やはり詐欺だった。しかし、彼らはある高等なトーク術を駆使していた。
マジックナンバーは「3」。営業やプレゼンでも有効的だ
詐欺業者らとのやりとりで気づいたことがあった。それは、彼らは自分たちの話を伝えるために、ことあるごとに「3つ」というキーワードを話の冒頭で話したことだった。
それで思い出したのが、経営コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーだ。同社では顧客企業などへのプレゼン資料やトークにおいて「3」がマジックナンバーになっていることはよく知られている。
「ポイントは3つあります。1つめは――。2つめは――。3つめは――」
1つや2つでは「少ない」という印象のため説得力が小さくなるが、4つや5つもあると「話が長い」という印象が強くなり、相手は集中力が持続せず真剣に聞かなくなる。「3」という数字が、人間にとって最も受け入れられやすい数字なのだ。
このトークの手法は、主に自分の意図するところを相手に的確に伝えたい時に使われる。話し相手の頭の中に3つの枠組みを準備させて、そのひとつひとつに、こちらの伝えたいことを埋めていく。これにより、自分の話を相手にわかりやすく理解させることができるのだ。
特に、この手の競馬詐欺にひっかかるのは、競馬初心者である高齢者がほとんどである。仕込みレースというものを高齢者に理解させようと、それをいっぺんに話したのでは、とても理解してもらえない。そこで「3つ」という初心者にもわかるやすい形にして、話を複雑にせず、順を追って説明をする。
この業者の場合、仕込みレースなどというウソの話をもちかけているので、詐欺ということになるが、この説明のテクニックは、営業でもプレゼンでも一般のビジネスでも大いに使えるものである。
もし、なかなか自分の話が相手に伝わらないと感じている人は、相手の頭に3つの枠組みを用意させて、そこに要点を入れて話すように心がけてはどうだろうか。
「理由は3つあります」
「重要なことは3つです」
「お伝えしたいことは3点です」
そうやって話の冒頭を「決め文句」のようにして、あとを続ける。そうすれば相手は「なんだろう」と思い、耳を傾けるかもしれない。また、よく聞けば話の内容が陳腐であったとしても、不思議とそれらしく聞こえて、説得力がアップすることもあるのだ。