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浪漫万丈

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● 『精霊の守り人』の佐藤直紀氏に学ぶ



2016年3月から、3年かけて放送がスタートする『NHK放送90年 大河ファンタジー「精霊の守り人」』。上橋菜穂子原作の人気シリーズを、主演の綾瀬はるかをはじめ、豪華キャストを起用しながら、全編4K実写ドラマ化することで話題となっている。本作の音楽を担当するのは、大河ドラマ『龍馬伝』や映画『ALWAYS 三丁目の夕日』などで知られる人気劇伴作曲家・佐藤直紀。強さと美しさを兼ね備えた綾瀬演じる主人公「バルサ」をイメージしたメインテーマから、二胡や馬頭琴など民族楽器をフィーチャーした楽曲まで、豊富なイマジネーションによって生み出される『精霊の守り人』の音楽世界。果たして彼は、異色のファンタジー作品である本作に、どんなアプローチで臨んでいったのか。

知っているようで知らない「劇伴」の世界。ドラマや映画など、これまで数多くの人気作品の音楽を担当してきた佐藤に、「劇伴」の仕組みからその醍醐味、果てはその「楽しみ方」に至るまで、「劇伴」をめぐるさまざまなことを率直に語ってもらった。

ようやくいただけたドラマのお話が、『GOOD LUCK!!』だったんです。大ヒットしたドラマでしたから、かなり恵まれた作品に出会えたんですよね。

―まずは、佐藤さんのプロフィールをお伺いさせてください。佐藤さんは、東京音楽大学の作曲科のご出身なんですよね?

佐藤:そうです。ちょうど僕が入るときから、作曲科に「映画放送音楽コース」というのが新設されて、その第1期生ですね。そのコースは、三枝成彰先生(『鉄腕アトム』『大河ドラマ 太平記』など)や服部克久先生(『NHK連続テレビ小説 わかば』『新世界紀行』テーマ曲など)といった、劇伴の世界のみならず作曲界の第一線で活躍している方たちが先生だったんです。その先生たちに、学生の頃から自分の曲を聴いて評価をしていただいたのは、僕にとってすごく大きかったと思います。実際に台本や映像を持ってきてくれて「これに音楽をつけてごらん」みたいな、すごく実践的な授業で、即戦力になる力をつけさせてくれました。

―では卒業後、すぐに劇伴のお仕事を?

佐藤:いや、大学を卒業してしばらくは、CM音楽の仕事ばっかりやっていました。それはそれで楽しかったんですけど、やっぱりひとつステップを踏むと、次のステップに行きたくなるじゃないですか。

―それでドラマや映画のほうに?

佐藤:そうですね。映画やドラマ方面に一生懸命売り込みをかけてみたんですけど、最初は全然仕事がこなかったです。15秒とか30秒の曲しか書いてないから、長い曲が書ける作家なのかどうか、向こうもわからないじゃないですか。ようやく1本目のドラマとしてお話をいただいたのが、2003年に放送された『GOOD LUCK!!』だったんです。

―木村拓哉さん主演のドラマですよね。

佐藤:はい。だから僕の場合、1本目の仕事が大きかったんですよね。大ヒットしたドラマでしたから。やっぱりたくさんの人に見てもらわないと評価もされないので、そういう意味ではすごく運がよかったというか、かなり恵まれた作品に1本目で出会えたんです。だから僕は、実力云々よりも、運と出会いに恵まれてここまでやってこれたところもあると思います。『GOOD LUCK!!』を見てくれたプロデューサーの方から、その後ドラマ『海猿』の仕事をいただきましたしね。

佐藤直紀佐藤直紀

―とはいえ、そこに実力や才能がともなわないと……。

佐藤:もちろん(笑)。でも僕、あるプロデューサーから「佐藤さんとやると当たるから」って言われたことがあって……「あ、曲で判断したんじゃないんだ」っていう(笑)。意外とそんなものなんですよ。というか、やっぱり音楽っていうのはすごく曖昧なものなんですよね。極端な話、いいドラマに当たると、いい曲に聴こえちゃう場合もありますから。逆に言うと、どんなにいい曲を書いても、ドラマや映画のクオリティーが低いといい曲に聴こえない。ドラマのでき次第、映像のでき次第で、音楽の評価って変わってしまうんですよね。だから、そういう意味でも、いい作品に出会うことは、劇伴作曲家にとって本当に大事なことだと思います。つまらない映画を音楽で面白くすることは、絶対に無理ですから。ただ、面白い映画を、2割3割、より面白くすることはできると思っていて……。

―そこを目指して音楽を作っていくと。

佐藤:そうです。たとえいい作品に出会えたからといって、そこで甘えて手を抜いたら、どうにもならないですから。僕の音楽が入ることによって、その作品が少しでもよくなるように、常に全力を注ぎます。手を抜くことは絶対にないです。いつもレコーディングの朝まで粘りますからね。

最終的には、体力勝負になります。いかに寝ないで曲を書き続けることができるか。1か月に30曲、40曲は当たり前ですね。

―非常に初歩的なところから教えていただきたいのですが、劇伴の仕事というのは、通常どんなところからスタートするのですか?

佐藤:映画とテレビでまったく変わってくるんですけれども、テレビに関しては、撮影とほぼ同時進行で音楽を作ることもあります。つまり、映像を見られないまま曲を書くんです。当然、台本も3、4話ぐらいまでしかできていない……結末を知らないときもありますから。テレビドラマの場合、そういうなかでサントラを書かなきゃいけない難しさがありますね。ただ、NHKさんの場合は、民放よりももっと時間的な余裕があって、撮った映像をどんどん送ってくれるので、『精霊の守り人』は映像をヒントにして音楽を作りました。

―映像もなく台本も途中までの場合、何をヒントに音楽を作っていくのですか?

佐藤:「こんな曲がほしい」という「メニューシート」と呼ばれるものは、事前にいただけるんです。映画の場合は、監督と僕が直接打ち合わせをして、「何分何秒の何フレーム目から音楽を入れて、何フレームで切る」みたいな細かいことを、映像を見ながら決めていくんですけど、テレビドラマの場合、監督と僕のあいだに「選曲屋さん」と呼んでいる方がいて、その方が僕の作った音楽を映像に当てていきます。たとえば僕が3分の曲を40曲書いたとしたら、その音楽を映像に合わせて編集して、どのシーンにどの音楽を当てるのかを考える。選曲屋さんが事前に監督と打ち合わせて、「こういう曲が何曲必要です」というメニューを作ってくれるんです。で、僕らはそれに沿って曲を書くというのが、一般的なドラマの曲の書き方ですね。

佐藤直紀

―その「メニューシート」には、どんなことが書いてあるのでしょう?

佐藤:基本的には、音楽用語じゃない言葉を使って、僕たちが曲を作れるよう、うまく導いてくれるような文章がついていて……今、ちょうど『精霊の守り人』のメニューがパソコンに入っているので、ちょっと見てみますか?

 

―はい、是非。

佐藤:こんな感じで……今回の『精霊の守り人』のメニューが普通と違っているのは、音楽を作り始める前に映像がある程度できているので、どのシーンにどの音楽を当てるのか、あらかじめその狙いを定めている。通常のテレビドラマの場合、どのシーンでどう使うのかまったくわからずに作るんですけど、今回はそこがちょっと違いますね。

―なるほど。

佐藤:だから、僕たちの仕事は、監督の言葉やメニューの文章をどうやってうまく音楽に変換していくのかが大事なんです。曲が書けるのは当たり前。その言葉や文字から監督の思いを汲み取って、「そうそう、こういう音楽がほしかった」と思ってもらえるようなものを作ることが第一なんです。もちろん、ときには意外性のある曲も書かなきゃいけないですけど、まずは「これだよ」と言ってもらえる曲を書いた上で、数曲、意外性のある遊びの曲とか、オーダーにない音楽を書く。そのバランスは、結構大事かもしれないですね。

佐藤直紀

―では、「理想的な劇伴」というのは……。

佐藤:やっぱり、作品に寄り添った曲を作るということだと思います。その作品の伝えたいことは何か、この作品はどういう作品であるかを理解して、一番はまる曲を書くこと。奇をてらった音楽とか実験的な音楽を作ることは、すごく簡単なんですよ。

―そのためには、音楽的な引き出しの多さも必要ですよね?

佐藤:劇伴作曲家と言われている人たちは、引き出しを持っていないと対応できないですね。アーティストだったら、「俺はロックしかできない」でいいのかもしれないけど、僕たちはロックも書けるけどクラシックも書けるような幅を持っていないといけない。特にCM音楽の場合はそうですよね。「ベートーベンの第九みたいな感じで」と言われて作ったのに、「やっぱりロックっぽい感じで」という話になって、次の日までにロックに書き直したり(笑)。そこで「できません」だと仕事にならないから、音楽的な引き出しを持っていることは最低条件だと思います。あとはやっぱり体力ですね。最終的には、体力勝負になりますから。いかに寝ないで曲を書き続けることができるかっていう(笑)。

―1か月に何曲くらい書かれていらっしゃるんですか?

佐藤:1か月に30曲、40曲は当たり前ですね。つまり、1日1曲じゃ間に合わないんですよ。『プリキュア』の映画をやったときは、3週間くらいで89曲書いたこともありました。

―ポップミュージシャンやバンドマンは、プリプロして、年に1回アルバムを出して、というペースですが……。

佐藤:それとはだいぶ違いますよね。だから常に締め切りとの戦いなんです。しかもこっちのペースで書けるのならいいですけど、監督とやりとりして書き直すことになると、予定が狂っちゃいますからね。


メインテーマは、間口を狭めるのではなく、気持ちよく作品に入っていける導入部として、かなり狙って作りました。

―ドラマ『精霊の守り人』の音楽について、もう少し話を聞かせてください。先ほどメニューの話がありましたが、全体に共通するトーンというか、その音楽性みたいなものは、どうやって決めていくのですか?

佐藤:まず原作を読んで、その後台本を読んで……でも今回は映像をかなり早くから撮っていたので、その映像をもらって、そこからイメージしていきました。映像を見る前は、どこか架空のアジアのような土地が舞台の物語なので、音楽も、たとえばちょっと独自の音階を使って、アジアっぽい音楽を作りたいよねという話を監督ともしていたんですけど、実際に映像を見てみたら、結構映像だけでその世界観が出せているように思えたんです。衣装が独特であったり、主人公の「バルサ」をはじめ登場人物の名前も変わっているじゃないですか。だから音楽までその方向でやってしまうと、やりすぎなのではないかと思ったんです。

―それは今回の作品には合わないと。

佐藤:そう。それはこの「大河ファンタジー」という、子どもから大人まで、お爺ちゃんお婆ちゃんまで見てもらいたいドラマとしては、ちょっとどうなんだろうという話をして。もちろん、その独特の世界観を出すために、民族楽器などを入れたりはしていますけど、音楽そのものがアジアに寄ってしまうのは、ちょっと危ないよねって。だから今回は、あえて音楽のクセはなくす方向にしています。

―民族的な楽器は入ってるけど、それを前面に押す方向ではないですもんね。

佐藤:そうですね。メインテーマも、音楽としてはどちらかと言うと西洋的ですし、現代的ですよね。それは、間口を狭めるのではなく、気持ちよく作品に入っていける導入部として、かなり狙って作りました。メインテーマというのは、「このドラマはこういうドラマですよ」ということを教えてあげるものなので、「『精霊の守り人』というのは、アクションや人間ドラマもあって楽しいドラマですから、どうぞ見てくださいね」っていう。まずは、そのための音楽が一番大事だと思うんですよね。

できあがる音楽は、映像から見える匂い、セット、衣装、主演をはじめとする役者さん、そのすべてから影響を受けている。

―オフィシャルのコメントでは、「綾瀬はるかさん演じる、強くて美しい“バルサ”を表現する事が多分出来たと思う」とコメントされていますが、劇伴を作る際に、演者からインスピレーションを受けることもあるのでしょうか?

佐藤:主役によって音楽は変わりますよね。今回は、先ほど言ったようにあらかじめ映像を見ることができたので、主人公に引っ張られるところがありました。僕が台本で読んだ「バルサ」という主人公は、もう少したくましくて男性っぽいイメージだったのですが、主演が綾瀬はるかさんということもあって、品というか、しなやかさというか、そういうものが映像から感じられたんですよね。彼女がどんなに顔を汚して、ぶっきらぼうな言葉遣いをしようとも、女性が持っている美しさが見えたので、そこにメロディーラインが引っ張られたのは事実です。主役が別の女優であれば、また別の曲になったと思います。それは僕が以前書いた大河ドラマ『龍馬伝』のメインテーマのときもそうで、福山雅治さんが主役じゃなければ、ああいう曲には絶対ならなかったですね。

佐藤直紀

―「一期一会」じゃないですけど、さまざまな要素によって、生まれてくる音楽も変わっていくんですね。

佐藤:そうですね。だから、できあがる音楽は、ある意味すごく奇跡に近いと思います。その作品に関わっているスタッフすべて――映像から見える匂いだったりセットだったり衣装だったり、主演をはじめとする役者さんだったり、そのすべてから影響を受けているので、誰かひとりが変わると、もう違う曲になってしまうんですよね。

―それこそ、先ほど言っていたメニューも、別の「選曲屋さん」が書いていたら、また違う音楽になっていたかもしれない?

佐藤:全然変わるでしょうね。その言い回しはもちろん、それこそメニューがどんなフォントで書かれているかによっても変わりますから(笑)。以前、連続テレビ小説『カーネーション』の音楽をやったとき、わりとシリアスな曲も必要だったんですけど、そのメニューの文字が丸文字っぽかったんです。で、それを読みながら曲を書いていると、なぜか曲がそんなに重くならないんですよね。同じ内容が書いてあったとしても、そのフォントにすら、影響されてしまうものなんです。

毎日本当につらいです。音楽が楽しいという時代は、大学で終わりました(笑)。

―お話を聞いていて、本当に繊細かつ大変な仕事だというのは理解したのですが、劇伴作曲家ならではの醍醐味はどんなところになるでしょう?

佐藤:醍醐味ですか……そう、映像に音楽がついてないときって、見づらいんですよね。だけど、それに音楽がつくことによって――先ほど2割、3割と言いましたけど、やっぱり劇的に見え方が変わるんです。映像音楽をやっていて面白いところは、多分そういうところだと思います。

―なるほど。ひとつだけ、非常に素朴な質問を。我々視聴者がサントラを買って劇伴を聴く際に、何かポイントみたいなものってあるのでしょうか?

佐藤:劇伴は「聴く」というか……これを聴いて映像を思い出してもらうためにサントラを出すわけです。聴けば絶対に映像が出てきますから。劇伴というのは、そのドラマをより面白くするための演出のひとつであって、音楽単体として聴くものではないですよね。こちらも映像ありきで音楽を書いていますから。だから、ドラマを見て気に入ってくれた人が、このCDを聴きながら、そのドラマのことを思い出してもらえたら嬉しいですね。

―完成したドラマは、いかがでしたか?

佐藤:できあがった直後の作品を客観的に見て評価することは難しいのですが、とても面白い作品になっていると思います。ただ、僕の作った劇伴に関しては、色々考えるところがありますね。それは今回のドラマに限らず、映画でも何でもそうなんですけど、試写のときは、「やっぱりこうしたほうがよかった」とか「これでいいのかな?」とか、反省点ばっかりなんですよ。それを客観的に見られるのは、とっくにDVDが出回って、テレビをつけたらたまたま僕がやった映画を放送していたぐらいのタイミングというか。その頃になってやっと客観的に、「あれで正解だったな」とか「これはちょっと違ったかな」と判断ができる。だから、今はまだ判断できないですね。

佐藤直紀

―つくづく大変なお仕事ですね……変な話、嫌になることってないんですか?

佐藤:いや、つらいですよ(笑)。曲を書いてる最中は本当につらいです。スラスラ書ければいいですけど、曲なんてスラスラ書けるわけないじゃないですか。でも、締め切りはある。今日中に1曲終わらせておかないと、あとが大変だ、という日々の繰り返しなので、毎日本当につらいです。音楽が楽しいという時代は、大学で終わりました(笑)。

―なかなか気が休まりませんね。

佐藤:あ、でも、最近楽しんで聴ける曲を1曲だけ見つけました。オリエンタルラジオの“PERFECT HUMAN”(笑)。なぜかあの曲だけは、楽しんで聴けるんですよね。

―それはなんかいい話ですね(笑)。

佐藤:(笑)。あの曲が世間で騒がれている意味はわかりますよね。単純に中毒性があって、楽しんで聴けちゃいますから。うん、あれはいい曲だと思います(笑)。







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