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- Date:2024年11月22日
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【話の肖像画】劇作家・翻訳家 高橋知伽江さん
今まで吹き替えの歌を誰が翻訳しているか気にする人なんていなかったんでしょうね。注目していただけるのはありがたいのですが、正直、少し戸惑う部分もありました。
<今年大ヒットしたディズニーアニメ映画「アナと雪の女王」で、主題歌の「Let It Go~ありのままで~」など作品中全曲の訳詞を担当。一躍、時の人として脚光を浴びた>
思いがけない大ブームでしたね。コンビニエンスストアに行くと、菓子パンの袋にエルサ(映画の主人公)が描かれていたりして、「これはすごい」と驚いたり。作品は公開されてから1度、映画館で見ましたが、訳詞と口の動きが合っているか気になってしまって、じっくりと見ることはできませんでした。こういうのを職業病っていうんですかね(笑)。
<ディズニー作品の訳詞経験は10年以上。「アナと雪の女王」の訳詞でも、登場人物の口の動きに歌詞の母音を合わせるリップシンクと呼ばれる技法を使った>
「アナ雪」に出てくる曲は、ブロードウェーで大ヒットを飛ばしているような人が作曲しているんですが、とても高度なミュージカルなんです。例えば、「生まれてはじめて」という曲では、妹のアナはお城の扉が開いてうれしい、姉のエルサは人の目にさらされるのが怖い、という対照的な2つの感情をデュエットしていますが、これが難しい。
男女が「好きだよ」と言い合うようなデュエットは普通にありますが、全く違う感情をデュエットして、曲として成立させるというのはとても高度な技術です。しかも、同時に歌う場面で両方の歌詞が聞き取れるようにしないといけない、という意味で苦労しました。
<中でも、「Let It Go」への制作サイドの思い入れは特別だったという>
「作品でしか成立しない歌ではなく、単独でも成立するような歌詞がほしい」というようなオーダーがありました。アニメの中の特別なお姫さまだけじゃなくて、今の普通の若い女性たちが気持ちを重ねられるような歌詞を、と。
私も作品を初めて見たとき、自分を抑えて生きている主人公のエルサはすごくかわいそうだな、と思ったんですよね。要するに、優等生的に育って、自分のやりたいことをやれなかった人が、抑えていた個性を出して「そのままでいいんだよ」というイメージが伝わればいいなと思って。それで、「ありのままの」という言葉が出てきました。
<エルサへの気持ちは、自身の人生を振り返って重ねる思いでもあった>
私自身、途中まではすごく優等生的な人生でした。良い学校を出て、良い会社に就職して。若い頃ってどうしても親や世間の価値観に左右されてしまうでしょう。そういう人って、程度の差はあるけどたくさんいるんだと思います。あんまり個性を強く出していいという世の中ではないですから。結果的には、それが多くの共感につながったのだと思います。(聞き手 緒方優子)
【プロフィル】高橋知伽江(たかはし・ちかえ) 昭和31年、新潟市生まれ。東京外国語大学外国語学部ロシア語学科卒業後、大手シンクタンクを経て劇団四季に入団。演出助手からスタートし、脚本、翻訳の修業を積む。一度離れて新神戸オリエンタル劇場などでも仕事をこなし、平成9年からフリーに。演劇台本の執筆、翻訳、訳詞を手がける。23年に「出番を待ちながら」「秘密はうたう」で第4回小田島雄志・翻訳戯曲賞受賞。25年4月から水戸芸術館演劇部門芸術監督。水戸市在住。