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- Date:2024年11月22日
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クロマグロはデリケートで生態がよく分かっていないため、世界で初めて卵からの完全養殖に成功した「近大マグロ」の量産化のネックは生存率の低さだった。稚魚から幼魚にする「中間育成」も生存率2~3%とされるなか、近畿大学と提携する豊田通商の子会社「ツナドリーム五島」(長崎県五島市)は参入2年目で35%を実現した。飼育環境や飼料、輸送法で“カイゼン”を繰り返した結果といい、将来的には50%を目指す。世界のトヨタグループのDNAが持続可能な完全養殖を支えている。(松岡達郎)
生存率2%からの出発
「最初からうまくいったわけではない」
豊田通商の関係者は、こう強調する。
ツナドリーム五島の生産拠点は、五島市(五島列島)沖に点在する円形枠の鉄製いけすだ。和歌山県内にある近畿大学の施設で産卵、ふ化して体長5~6センチになった稚魚を受け入れ、30センチの幼魚にまで育てる中間育成事業に使われている。ここで育った幼魚がさらに国内の養殖業者に販売された後、2~3年かけて成魚に育てられた上で出荷されていく。
もともと稚魚から幼魚になるまでの生存率は2~3%。豊田通商は、この中間育成の段階の生存率を上げることで近大マグロの量産化にめどをつけるため、平成22年6月にツナドリーム五島を設立。最初の22年度は近大が供給した稚魚3万匹を受け入れた。
ところが、和歌山県内の施設から水槽を積んだトラックで運ばれた稚魚のほとんどは五島市に到着したときに死んでいたという。
輸送時の稚魚の死もあって22年度に出荷できた幼魚は700匹。生存率は2%だった。
相次ぐカイゼン
最初のカイゼンは、稚魚の輸送をトラックから船による海上輸送に切り替えたことだった。
飼育環境もすぐにカイゼンに取り組んだ。最初は、木枠の長方形のいけすを使っていたが、稚魚の衝突の原因になるとして一定方向に回遊して泳ぎやすいように円形枠のいけすに変更。ストレス軽減のため、同じいけすで飼育する稚魚の数も減らした。
えさは、配合飼料とともにサバやイカナゴなどの生えさを併用。内臓が活性化するように栄養分が豊富になるように改良を重ね、海が荒れたときにいけすまで行けないときのために自動給餌機を取り入れた。
ツナドリーム五島の高橋誠取締役は「稚魚のストレスをいかに軽くするかが重要。えさは、栄養バランスや腹持ちまで考えた。ここまでやると、出荷のときに一抹の寂しさを感じるようになったくらい」と笑う。
そして中間育成事業の参入2年目の23年度には生存率は35%にはね上がり、1万5千匹を出荷。事業も軌道に乗り出した。
24年度は大型台風の影響で生存率17%、25年度は猛暑と赤潮の発生で生存率26%にとどまったが、今年度は生存率35%、幼魚5万2500匹の出荷を見込んでいる。
完全養殖マグロの将来
豊田通商は、ツナドリーム五島の近くで、稚魚を生産する別の子会社「ツナドリーム五島種苗センター」を来年5月から稼働する予定。和歌山県内にある近大の施設から稚魚を運んだ場合、中間育成のいけすに運ぶ際に半分程度が死んでしまうことに対応し、輸送中の稚魚の死を防ぐのが狙いだ。
こうして生産規模や生産効率を上げるとともに、ツナドリーム五島の高橋取締役は「和牛のように血統の選択育成を通して、早く成長して味の良いマグロをつくることもできる」と意欲をみせる。高橋取締役は自分たちを羊飼いや牛飼いになぞらえて“マグロ飼い”と呼び、生産効率や品質の向上に絶えず取り組んでいるという。
近年、近大マグロを使った料理を提供する近畿大学の養殖魚専門店が大阪・キタと東京・銀座で人気を博しているが、まだまだ魚など「天然モノが良質」という固定観念が根強い。
とはいえ近大マグロを百貨店のイベントなどで握った経験のある東京・銀座の老舗すし店「銀座久兵衛」店主、今田洋輔さんは「天然モノと比べて泳ぎが足りないのでひと味違うが、脂が乗ってトロ好きの方なら満足されると思う。天然モノに混ぜて出しても分からないかもしれない」と話すなど、味については一流の料理人からの評価も受けている。
とくに海外ではサステイナブル(持続的な)シーフードを提供する飲食店の評価は高い。どこで生まれ、どうやって育ったかを把握できる完全養殖モノは「食の安全」という意味でもセールスポイントにもなる。何より、世界的な乱獲で個体数が減少し、世界的に漁獲規制が強まるなか、クロマグロの完全養殖は水産資源保護の観点から重要度を増している。
高橋取締役は、こう強調する。
「いま稚魚などに与えている生エサは天然のサバなど。その点は天然資源を使っていることになる。近大の研究成果を踏まえて配合比率の比率を上げていき、時間はかかるかもしれないが、えさも天然資源を使わない完璧な完全養殖を目指したい」